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鈴木晶 「グリム童話 メルヘンの深層」

2011.07.06 23:50
グリム童話―メルヘンの深層 (講談社現代新書)グリム童話―メルヘンの深層 (講談社現代新書)
(1991/01)
鈴木 晶

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 …ていうかもう7月ですか。。先月はまるで更新できず猛反省中です。今月は時間もできるので、ぼちぼち更新速度を戻せるかと…。
 たわごとはさておき読書感想です(笑)。
 映画「赤ずきん」を観た気分のまま、グリム童話関連の本に手が伸びてしまいました。でもグリム童話そのものではなくてグリム童話論の本(笑)。
 精神分析学を通して文化史や精神史を研究している著者によるグリム童話の「面白さ」を探求した一冊なんですが、ありがちなフロイト的解釈ではない捉え方読み解き方が本当に面白い一冊。
 1991年刊行の本書は、その後のグリム童話ブームの(真面目な)先駆け的一冊だと思います。
 「赤ずきん」「ヘンゼルとグレーテル」「シンデレラ」「ねむり姫」「ブレーメンの音楽隊」…。誰もが絵本やディズニー映画で子供の頃に接しているだろうメルヘンの代名詞とも言えるグリム童話は、兄ヤーコプ(Jacob Ludwig Karl Grimm;1785~1863)、弟ヴィルヘルム(Wilhelm Karl Grimm;1786~1859)のグリム兄弟が19世紀初頭のドイツで収集したといわれる民話集だ。

 本書では、そのあまりに有名なグリム童話の、けれどもあまり知らていないマイナーなお話の紹介、グリム兄弟の生涯やグリム童話成立の背景、メルヘン研究から見たグリム童話、グリム童話の虚像と実像、グリム童話の本当の「面白さ」を解説しながら、グリム童話の意外な実像を見せてくれる。

 まず興味深いのは、古くからドイツに伝わる民話を集めたものである、と思われている「グリム童話集」が実はそうではないということ。
 「グリム童話集」の取材源になったといわれる女性たちは、実はドイツ人ではなくフランスから移住してきたユグノー教徒ばかりで、彼女たちから聞き取った民話は当然純粋なドイツ民話ではなくフランスに伝わるものだった、とか、彼女たちがよく言われているような文盲の老婆ではなく読み書きのできる教養階級出身でありグリム童話に採られた話のほとんどが「語り伝えられたこと」ではなく「書物に書かれていたこと」だとか、意外です。
 更に意外なのは「グリム童話集」の代表とも言える「赤ずきん」「シンデレラ」「ねむり姫」などは、フランスで17世紀に刊行されたペロー童話が元となっていて、「赤ずきん」の赤い頭巾や「シンデレラ」のガラスの靴といった童話に欠かせない重要なアイテムは、実はアイディアの天才であるペローによる創作で、元々の民話には存在していない、ということ。なのでよく見かけるフロイト学派などの解釈は意味を成さない、ということになる。本書でも著作が引用されている歴史学者のロバート・ダーントン(Robert Darnton;1939~)の指摘するように、こうした歴史的な視点を見落とすと、誤ったメルヘン解釈をしてしまいかねない。
 
 驚くのはこればかりではなく、その「採取」した童話をグリム兄弟、(というか主に弟のヴィルヘルム・グリム)が版を重ねるごとに改作しており、決定版ではもう創作に近いものになっている、という事実。
 そして研究しようと思えば材料は揃っていたにもかかわらず、グリム童話の研究者が最近までこのことに触れるのをタブー視してきたのは、貧困から努力を重ねてこの民族的文化遺産を残したグリム兄弟の神聖性を汚したくなかったためであり、また「ドイツに伝わる民族的文化遺産」という神秘のベールを剥ぎ取りたくなかったからだろう、と著者は言う。
 グリム兄弟が生きた18世紀後半から19世紀半ばといえば、ドイツの地は神聖ローマ帝国という国があるとされながらもその実幾つもの領邦国家が群立しており、1815年のウィーン会議で漸くドイツ連邦として統一された時代。けれども本当の意味での統一も「ドイツ国民」としての意識の団結も、まだまだ先のことだ。
 グリム兄弟は、民族の意識統一するものは言語文化だとして、ドイツの地に古くから伝わる民話や伝承を採集した(実際は各地を回って採集したわけではなく、フランス人から聞いたものを採ったのだけれども)。後年のグリム童話の研究者も、グリム童話を純粋なゲルマン民族の民話であり語り継がれるべき偉大な財産だと盲信した。
 どちらも民族意識の高揚という目的のもと、「グリム童話集」を本来とは違うものにしてしまっていたのかもしれない。

 グリム兄弟、(主に弟のヴィルヘルム)の改作、あるいは書き換えの結果、出来上がったのは純粋で素朴な民話ではなく、当時現れ始めたブルジョワ階級の、子供は親の言い付けを聞く従順な存在であれとか女は黙って家にいろというような価値観の盛り込まれた物語だった。
 当時は削除の対象にならなかったらしい残虐で血生臭い場面は手付かずなのにもかかわらす、版を重ねる度にヴィルヘルムはブルジョワジーの道徳観や価値観に合わないものは削除して、それに合う書き換えを行っている。いわば、ブルジョワ階級の生活様式を確立させ再生産していくという役割を担っていたのである。
 現在、当時の残忍さはもはや許容されなくなりグリム童話にもともとあった残酷な場面は削除されていて目にすることは殆ど無い(数年前に流行った「本当は怖い~」は、この残忍さや性的な部分をクローズアップしたものだった)。けれどもブルジョワジーの道徳観・価値観の方は未だ健在だ。童話の中で、言い付けを守らない子供は怖い目に遭うし、お姫様は黙って白馬の王子様を待つ。フェミニズム運動の盛んな欧米では最近はこうした如何にもな童話に疑問を挟む向きも多いようだが、日本はどうだろう。もはや崩壊している感のあるブルジョワ的価値観に、それでもしがみついている人は多い気がする。
 残酷・陰惨さなどよりも、メルヘンの持つこちらの面の方がよほどこわい。
 …なんてことを私の拙い文章で書いてもまるで伝わらないので、著者のこの本の締めくくりの秀逸な文章を挙げて、この感想を終えます。

「今のところ、私たちにできることといったら、グリム童話を「古代から伝えられた民衆の知恵の結晶」として見ることをやめ、その中に、資本主義とか近代市民社会といった名前で呼ばれる何者かの「陰謀」を読み取りつつ、メルヘンを「楽しむ」ことくらいではなかろうか。(206頁)」
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本や映画や音楽の感想を新旧問わずマイペースに書いています。
ジャンルは何でもござれですが、微妙な偏りがあるみたいでそれに流されがち。好みの合う方がいらっしゃれば大歓迎です。
本、というか文芸は物語のしっかりしたものよりは、迷宮に迷わせてくれるような作品が好み。映画は劇場鑑賞派です。
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※たいして頭の良くない人間が無い知恵絞って書いております。無断転用等はご容赦くださいね。

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