スポンサーサイト

--.--.-- --:--
上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

100,000年後の安全

2011.08.07 23:10
映画「100,000年後の安全」
 少し前に、放射性廃棄物処理施設の恒久的安全についてのドキュメンタリー映画「100,000年後の安全」を観てきました。

Story>  フィンランドで世界初の高レベル放射性廃棄物の永久地層処分場の建設が決まった。廃棄物が一定量に達すると封鎖し、10万年間保持されるように設計されるという。しかし、誰がそれを保証できるのか? 未来の人々へ、その場の危険性を警告できる方法はあるのか? マイケル・マドセン監督自ら施設に潜入し、未来の安全性について問いかけたドキュメンタリー。

 原発あるいは原子力そのものにつてではなく、原発を利用すれば必ず出てくる高レベル放射性廃棄物の処理施設について、そしてその永久的安全を如何に守るのかを問いかけたドキュメンタリーです。原発政策について考えたいという方にはちょっと違うかもしれませんが、原発の危険性同様決して見過ごしてはいけない問題を扱った作品です。

 今年の2月にBSの特集「放射性廃棄物はどこへ」で「地下深く 永遠(とわ)に 核廃棄物 10万年の危険」というタイトルだったで放映されていたドキュメンタリー映画と同じもの。あの時は中途半端にしか見ていなくて、再放送あるならちゃんと見ようと思っていたら3月11日を迎えた。この作品を、まさかこんな状況下で見ることになろうとは、あの時は思いもしなかった。

 あれ以来、原子力発電の危険性や問題についての論議は活発になったけれども、その原子力発電を利用すれば必ず出てくる高レベル放射性廃棄物のことは、まるで取り沙汰されない。
 この映画は、現在フィンランドで建設中の世界で唯一の放射性廃棄物の最終処分場「オンカロ」を巡るドキュメンタリー。
 高レベル放射性廃棄物の処理方法を巡っては、これまでさまざまな案が出されてきた。ロケットに乗せて太陽に打ち込む(すごい話だ…)、という方法は発射時に絶対に事故が起きないと保証できないために、そして海底深くに沈めるという方法は海洋汚染に繋がりかねないという懸念から断念。そして廃棄物の再利用という方法は、核爆弾を生み出す危険がある。結果としてフィンランドで採られたのは、最も安全だと思われる太古から変動のない硬い岩盤を深く深く掘り下げ、その先に処理施設を造ることだった。
 「オンカロ」とは、フィンランド語で「隠し場所」という意味。
 岩盤層を500mの深さまで掘り下げた先に作られるオンカロは、フィンランド国内で排出される核廃棄物でいっぱいになる約100年後に入口を完全封鎖するという。

 けれどもそこでこの計画は終わらない。
 高レベル放射性廃棄物が生物にとって安全なレベルになるには、10万年かかると言われる。
 10万年。その時間の長さに気が遠くなる。10万年前、人類はなにをしていただろう。そして、10万年後、人類はなにをしているだろうか。10年先のことだって想像できないのに、そんな先のことなど想像もつかない。
 その想像もつかない長さの時間の中、戦争や天災の影響を受けることはないだろうか。そして何より、誰かがこの施設を開けてしまいはしないだろうか。
 人類は好奇心の塊のような生き物だ。10万年先に生きる誰かにとって、オンカロは私たちにとってのギザのピラミッドのような、なんのために造られた施設なのか忘れられたものとなっているだろう。そして、それを見つけた誰かが謎を解き明かそうとここを掘り起こしはしないか。
 この最悪のシナリオを何とか回避できないかと、関係者たちは模索する。警告を刻んだ石碑を置くことを考えるが、10万年先で現在の言語が理解される保証はない。ならば文字ではなくドクロの図やムンクの「叫び」など、わかりやすいマークや絵画にしてみてはという案が上がるも、それもいつの時代の誰もに共通に理解されるのかは怪しい。いっそ、何も残さず忘れ去られてしまうべきなのでは、という意見もある。
 これは論議を重ねても重ねても、どこまでも不毛な話だという思いが拭えない。

 こんな10万年も先の人々にまで深刻な影響を出すかもしれない迷惑なものに、人は何故ここまで依存してしまったのかと半ば呆れてしまう。
 原子力開発の初期段階において、放射性廃棄物を無害化できる日がいつか来るという期待があったことは知られているが、もしかしたらその根拠のない期待は、今もかなり大きく生きているんじゃないだろうか。そして、放射性は目に見えないし、大きな事故が起こらなければ騒がれることもないから、例えば温暖化につながる二酸化炭素排出の増加問題ほどには人の意識に上ることもなかったのかもしれない。

 マイケル・マドセン監督は、終始10万年後の未来に生きる「誰か」に語りかける。
 「きみの時代に放射性物質はない?」
 「遠い未来にこれ(※オンカロのこと)を見つけた君は、我々の文明をどう思うだろうか」
 「ここにはなにもない。立ち去れ」
 今これを見ている私たちを通り越した、はるか向こうに向かって語りかけている言葉は、最初のうち違和感を覚えた。けれどもそれが徐々に効果を上げてくる。私たちは会うことの叶わない遥か先に生きる誰かに甚大な迷惑を掛けることになるかもしれないという事実がはっきりと立ち上がってくるのだ。
  
 終盤が忘れられない。
 現代音楽家エドガー・ヴァレーズ(Edgard varese:1883~1965)の歌曲「暗く深い眠り」(「Un Grand Sommeil Noir」。映画のパンフレットでは「巨大な暗黒の眠り」となっている。詩はヴェルレーヌ Paul Verlaine:1844~1896)の流れる中、地底深くにあるオンカロの建設現場に向かう作業員の姿が、マドセン監督が終始語りかけている遠い未来にこの場所を見付け開けてしまうかもしれない「誰か」の姿と重なる。
 オンカロを建てて放射性廃棄物を閉じ込めれば終わる話ではないのだ、という事実を突きつけられる。放射性物質は無くならないし、100%安全な処理方法があるわけでもない。これは日本を始めとする世界中の原子力発電を利用している国々が真剣に向き合わなければならない問題だろう。
 こと複数の大陸プレートの上に存在しているというよりは大陸プレートがぶつかり合うことで堆積して出来上がっている島国・日本の地層は不安定で、フィンランドのような太古からもこれからも変わらない強固な岩盤もない。原発政策と同様に、これだけ原発事故で揺れているにも関わらすメディアがまるで触れようとしない高レベル放射性廃棄物の処理がどうなっているのかについても目をむけるべきだろう。
 今は放射性物質を無害化できないけれど、100年後ならできる技術が開発されるかもしれないじゃないか、などという楽観論を持ちだしてこの問題から目を逸らすことは論外だ。何故なら今現放射性物質を在無害化する手立てが見付かっていないのだから。ないものを担保に安心を買うほどリスキーで馬鹿げたことはないはず。
 そしてプルトニウムの再利用という、もはや世界の主流を逆行するような道もなしです。

 原子力発電については、こうした高レベル放射性廃棄物のこともひっくるめて真剣に考えていかなければならない難題なのだと思います。

 補足。映画の最後に流れたヴァレーズの「暗く深い眠り」について。
 この曲はヴェルレーヌの詩をもとに作られた歌曲で、後にヴァレーズは自身の初期の作品を葬っていて、これが唯一現存する彼の初期の作品でもあります。
 映画に使われているのはこれのオーケストラル・ヴァージョンで、オリジナル・ヴァージョンはピアノとソプラノ独唱で構成されたよりシンプルで、そして静謐な印象(両方とも「Varese: Complete Orch Works」に収録されています)。
 そして、楽曲もだが、ヴェルレーヌの詩が、まるでこの映画のために書かれたのではないかと錯覚させられる。堀口大學訳の「ヴェルレーヌ詩集」に載っていたと思うけれど手元にないので、仏語よりは理解しやすい英訳でどうぞ。

  A deep black sleep

  A deep black sleep
  descends upon my life:
  sleep, all hope,
  sleep, all desire!

  I no longer know anything
  I am losing any memory
  of good or of evil…
  oh, woeful tale.

  I am a cerdle
  Which ahand is rocking
  in the hollow of a grave:
  silence, silence!
              (「Varese: Complete Orch Works」ブックレットより)

(ヴァレーズの楽曲については、現代音楽に詳しい銀壁亭のTandoさんにいろいろ教えて頂きました。さすが音楽の事ならTandoさん(笑)、エンドロールで楽曲のクレジットを見逃しても心強いです(笑)。ありがとうございます!)
関連記事
スポンサーサイト

テーマ:映画レビュー
ジャンル:映画

コメント

非公開コメント

08 | 2017/09 | 10
- - - - - 1 2
3 4 5 6 7 8 9
10 11 12 13 14 15 16
17 18 19 20 21 22 23
24 25 26 27 28 29 30
About me

夜長姫

Author:夜長姫
お立ち寄りいただきありがとうございます。
本や映画や音楽の感想を新旧問わずマイペースに書いています。
ジャンルは何でもござれですが、微妙な偏りがあるみたいでそれに流されがち。好みの合う方がいらっしゃれば大歓迎です。
本、というか文芸は物語のしっかりしたものよりは、迷宮に迷わせてくれるような作品が好み。映画は劇場鑑賞派です。
拍手、コメントなど頂ければとても嬉しいです。
※たいして頭の良くない人間が無い知恵絞って書いております。無断転用等はご容赦くださいね。

Category

CategoricTag

Comment

Recent entries

Search

Link

RSS

Archive

Mail Form

質問等ございましたらこちらからどうぞ

名前
メール
件名
本文

Counter

フリーエリア

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。