スポンサーサイト

--.--.-- --:--
上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

森光子「春駒日記」

2011.08.25 23:41
春駒日記 吉原花魁の日々 (朝日文庫)春駒日記 吉原花魁の日々 (朝日文庫)
(2010/11/05)
森 光子

商品詳細を見る

 「吉原花魁日記」に続く元娼妓の著者(同名の女優さんとは別人です)による手記。1927(昭和2)年、文化生活研究会より刊行されたもので、約80年ぶりの復刻です。
 タイトルには「日記」とありますが、前回のような日記形式ではありません。吉原での日々が、同朋や客たちのこと、病気をした時のことなど前回は触れられていなかったエピソードごとに書かれています。
 また、婦人雑誌に掲載された記事や著者の同輩で彼女に続いて吉原を脱出した娼妓・千代駒が著者に宛てた書簡、そして著者について報道された当時の新聞記事や当時の吉原の地図などの資料も収録されています。
 前回の「吉原花魁日記」は、妓楼での日々が綴られた日記だったためか性的なことや時局に批判的な内容と思われるかなりの箇所に検閲が入っていましたが、今回はそれに比べれば検閲で塗りつぶさてれいる部分は少なかったように思います。郭から脱出後、発表することを前提に書かれたものだからでしょうか。

 今回は同じ妓楼で働いていた娼妓たちのことや、癖のある客のことなどが多く書かれていて、春駒が失礼な客をやり込めたりするエピソードもあります。
 その中でも、中盤以降に多くのページを割いている吉原病院に入院した時の話がすさまじい。
 十畳一間の広さに9人もが入れられ、薄っぺらで板の間のように固い敷き布団は干されること無く敷きっぱなしで異臭を放ち、与えられる食事は術後さえも薄い南京飯のみ。しかも必要なものは全て自己負担で、もちろん妓楼が負担してくれることはない。まさに生き地獄だ。
 けれどもその生き地獄の病院にいたほうが、妓楼に帰るよりましだと話す花魁がいる。
 そして病院に長く入院していたある宿場女郎の姿に、自分もいいように使われるだけ使われていつかこうなるのではと身震いしたことが、著者が吉原から逃げることの大きな原動力になったようだ。
 
 もうひとつこれは酷いと思わずにいられなかったのが、著者の親戚たちの仕打ち。
 母親が危篤になり著者は妓楼に売られて以来初めて故郷に帰るんですが、母親はまもなく亡くなってしまう。嘆き悲しむ彼女にその身内たちが、お前がいては外聞が悪いからと葬儀にすら出させようとしない。
 彼女が娼妓に身を沈めたのは父親が亡くなったことで生活ができなくなった家のためであったのに、その仕打ちはあまりに酷い。
  吉原の引手茶屋の女将が書いた「吉原はこんな所でございました」にも似たようなエピソードが出ていましたが、当時の娼妓たちは晴れて年季が明けても快く故郷に迎えられるものはまるで無く、結局また戻ってくるほかないケースが多かったようだ。
 「春駒日記」の最後はこんな言葉でしめられている。
 
「可哀想な私達がどうしてこう苦しみを重ねねばならないのかしら。野良犬はお上の力で撲殺の浮目を食うけれど、いっその事、そんなにこうした私達を苦しめるなら一思いに撲殺して呉れたら……。(258頁)」

 人がここまでのことを思うまでになる公娼制度とは、一体どんなものだったのだろうかと暗澹たる気分にさせられます。そしてそんな制度が、この国にはそう遠くない過去に存在していたという事実にも。
 彼女の残した二冊の著作はほぼ唯一の娼妓の生の声の記録であり、それは私たちの心に深く刻み付いてくる。貴重な作品です。
関連記事
スポンサーサイト

テーマ:読書感想
ジャンル:本・雑誌

コメント

非公開コメント

04 | 2017/05 | 06
- 1 2 3 4 5 6
7 8 9 10 11 12 13
14 15 16 17 18 19 20
21 22 23 24 25 26 27
28 29 30 31 - - -
About me

夜長姫

Author:夜長姫
お立ち寄りいただきありがとうございます。
本や映画や音楽の感想を新旧問わずマイペースに書いています。
ジャンルは何でもござれですが、微妙な偏りがあるみたいでそれに流されがち。好みの合う方がいらっしゃれば大歓迎です。
本、というか文芸は物語のしっかりしたものよりは、迷宮に迷わせてくれるような作品が好み。映画は劇場鑑賞派です。
拍手、コメントなど頂ければとても嬉しいです。
※たいして頭の良くない人間が無い知恵絞って書いております。無断転用等はご容赦くださいね。

Category

CategoricTag

Comment

Recent entries

Search

Link

RSS

Archive

Mail Form

質問等ございましたらこちらからどうぞ

名前
メール
件名
本文

Counter

フリーエリア

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。