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多和田葉子「尼僧とキューピッドの弓」

2010.10.18 23:36
尼僧とキューピッドの弓 (100周年書き下ろし)尼僧とキューピッドの弓 (100周年書き下ろし)
(2010/07/24)
多和田 葉子

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 老齢の尼僧たちが第二の人生を送っているドイツの修道院を訪れた日本人作家。9人の個性的な尼僧たちと交流していくうち、前尼僧院長の駆け落ち事件の噂を耳にします。弓道が引き起こしたというそれは、けれど言葉を重ねていくほど曖昧で空虚になり……。
 多和田さんの新刊は、いつもの前衛的な作風とは違って、割と読みやすい印象でした。
 修道院の尼僧たちは、とても老年に差し掛かった女たちとは、いや、「尼僧」とは思えないほど好奇心に満ちていて活発な生活をしています。皆、それぞれにそこに至った境遇がありそれぞれの立場や見解があり、それが反発したり結託したりする。修道院なのに、そこには信仰そっちのけで女たちの世俗的な営みが繰り広げられています。
 訪問者である日本人作家の「わたし」は、彼女たちに密かな名前を付けます――「透明美」さん、「貴岸」さん、「老桃」さん、「陰休」さん……。カタカナのドイツ名ではなく漢字で付けられたそれらは、目にしただけで彼女たちがどういう人なのかを知らせてくれます。このあたり、前作の
「ボルドーの義兄」を思い起こさせる手法ですね。
 それでまぁ、賑やかな彼女たちとの交流が始まっていくんですが、「わたし」を招いたのに既に失踪していた前尼僧院長の噂が、それぞれからのぼります。彼女は弓道を教えにやってきていた男と駆け落ちしたこと、その男とはもともと恋人同士だったらしいことなどが分かってきますが、何と言うか、失踪事件の話が繰り返されるたび、空白が埋まっていくどころか曖昧にぼやけていく。それぞれがそれぞれの見解を、それぞれの言葉で語るものだから、ひとつにまとまるどころかバラバラになってしまう。
 この本は日本人作家が語り手の「遠方からの客」と、失踪した前尼僧院長が語る「翼のない矢」の二部構成になっていて、「遠方からの客」の埋まらない空白を第二部でその張本人たる前尼僧院長が弁解でもするように補っているんですが、やっぱりばらばらなままという印象です。
 最後のピースは前半とは異質すぎて馴染まない気さえします。
 それぞれの尼僧たちが個別の物語を生きているような。
 それでも全体に流れている共通の「何か」があるとしたら、「女性の性」を生きていくことの苦悩、でしょうか。
 ところで本作には、魅惑的な「多和田語」が多く登場します。その中でも私は、「遠方からの客」のはじめの方で、「九州」と言ってもきっと解らないドイツの尼僧に主人公が「南日本」と説明するところが好きですね。南日本、なんだかとても暖かそうな、でもこの日本ではない架空の場所を想像させられます。
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夜長姫

Author:夜長姫
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本や映画や音楽の感想を新旧問わずマイペースに書いています。
ジャンルは何でもござれですが、微妙な偏りがあるみたいでそれに流されがち。好みの合う方がいらっしゃれば大歓迎です。
本、というか文芸は物語のしっかりしたものよりは、迷宮に迷わせてくれるような作品が好み。映画は劇場鑑賞派です。
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※たいして頭の良くない人間が無い知恵絞って書いております。無断転用等はご容赦くださいね。

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