スポンサーサイト

--.--.-- --:--
上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

松田瓊子「紫苑の園/香澄」

2011.02.05 20:27


   紫苑の園/香澄
   (2000/04)
   松田 瓊子


 夭折の少女小説作家・松田 瓊子(1916~1940、作家・野村胡堂の娘)の代表作。
 寄宿舎・紫苑の園で暮らすことになった少女・香澄を主人公に、そこでの少女たちの友情や喜び、哀しみが描かれる。
 大正~昭和初期の少女小説で有名な作品といえば、少女同士の強い結びつき「エス」を描いた吉屋信子の一連の作品や川端康成の
「乙女の港」がありますが、 この作品はそれらとは違った、どこか清々しい作風です。
 本作は、「紫苑の園」と「香澄」の二部構成。内容はざっと、下記のとおりです。

◆ 紫苑の園 ◆

 母が診療所に入ったことで、少女・香澄は亡き父の友人西方夫妻の営む寄宿舎・紫苑の園に入ることに。そこには6人の少女たちがいて、香澄は彼女たちとの友情を育みながら新しい環境の中生活を始めます。香澄は同室になったふたつ上のツル子を始め、他の少女たちと仲良くなるが、ただひとりツル子と同学年で優等の弥生にだけ嫌われてしまう。香澄は強い自己主張はしないけれどしっかりとした芯を持つ心優しい性格で、皆ともすぐに打ち解けるのだが、時折病床に臥せっている母のことを思い出してふさぐことがあり、そこが弥生にはよく解らない掴めないひとと感じるらしく、事あるごとに不信を募らせる。
 夏休みの箱根の湖畔へのキャンプや紫苑の花の頃の「紫苑祭」など、紫苑の園での生活は楽しく過ぎていく。しかしある日、母の容態が悪化。香澄は急いで母のもとに駆けつけるが、間もなく母は逝ってしまう。
 哀しみに沈む香澄を、紫苑の園の少女たちは慰める。そんな香澄の前に、仕事で英国に行ったきりこれまで一度も交流のなかった祖父が姿を現し、(香澄の両親である)息子夫婦の死に際にも帰国できなかったことを詫びつつ、ただひとりの孫娘に、これからは共に暮らそうと言う。母を喪ったばかりの香澄は、これに深い歓びを覚え、祖父と生活を共にするべく紫苑の園を去る。
 その後も香澄は折あるごとに紫苑の園を訪れた。最大の懸念だった弥生との確執も、香澄が弥生の妹のためとった行動で解消され、穏やかなクリスマスを迎える。

◆ 香澄 ◆

 その後。香澄はツル子とともに、ツル子の郷里である伊豆にやってくる。
 ツル子の家ではその両親や兄の督、弟の充に大歓迎される。暖かな海と陽光に癒されながら香澄は伊豆での生活を楽しむが、やがて督に仄かな恋心を抱くようになる。それは督も同じで、できれば一緒になりたいと思う。けれども亡くなった母に似て体の弱い香澄を案じる、督たちの両親は中々いい顔をしない。また香澄も、あとにひとり残すことになる祖父を思うと、自分の思うままに振舞うのはどうかと悩む。けれどもやがて親友と兄の間を取り持とうと奔走するツル子の努力も相まって、ふたりには幸福が訪れたのだった。
 
 読んでいちばんに感じたのは、清々しい美しさ。
 松田瓊子が描く少女たちの世界は、瑞々しさを湛えています。昭和10年代当時、吉屋信子はちょっと古風な感じがしただろうし、川端康成は男性作家。翻って松田瓊子は当時の少女たちとたいして年の変わらない若い女性であり、ために少女らしい瑞々しさのある作品が書けたのでしょうし、読者であった少女たちも共感し、支持したのでしょう。
 そして、戦前の少女小説といえば少女同士の特別な結び付き「エス」の関係を描いたものが多い中(というか、私はそういうものしか知りません)、この作品はちょっと違っています。寄宿舎での生活の中、心を通わせる友情は育まれても、エスの関係が築かれる様子はありません。それが、どこまでも清らかな少女の園を思わせ、この作品を美しいものにしている。
 けれども最大の「違い」は、香澄と督の恋愛でしょう。香澄が親友の兄に惹かれ、恋をし、結ばれるまでの甘酸っぱい展開は現在の少女漫画にも通じる面白さですが、当時の少女向けの作品にしては中々大胆なものだったのではないだろうかと思います。生前、瓊子は「香澄」は自分が30歳になるまでは世に出さないでほしい、それまでははずかしいから嫌だ、と語ったそう(国書刊行会版「香澄」の瓊子の妹・松田稔子のあとがきによる)。それは、少女の美しい友情を描いた「紫苑の園」とは違い、「香澄」は紛れもなく男女の恋模様を描いた作品だからで、戦前の少女たちには、異性との恋が描かれた小説は中々刺激の強いものだっただろう。だから、少女同士のエスが流行したんでしょうし。
 そして、香澄がその不幸な立場に感傷的になる少女としてではなく、中々に教養の深い、芯の通った女性として描かれているのも見逃せない点。
 病床の母にミルトンのソネットを読んでやったり、督とトーマス・マンの「ブッデンブローク家の人々」について語り合ったり。紫苑の園で皆とシューマンの「謝肉祭」をピアノで弾いている場面では、渋い選曲だなぁと感心しましたが、これは作者・瓊子のセンスですね。
 ともかくこれだけ教養の深い香澄ですが、あくまで控えめなのがとても好感が持てる。香澄をあれだけ毛嫌いしていた弥生までもが遂には改新(?)してしまうのも頷けます。
 そんな香澄の人物像も相まって、読後感のとてもいい少女小説です。 
 ただ、全体にクリスチャン的思想が漂うので、それが苦手な人には受け付けられないかもしれません。

 ところで、私が読んだのは国書刊行会から出ている中原淳一装幀の淳一文庫版。こちらは
「紫苑の園」と「香澄」の二冊に分かれていて、「香澄」の方には短編「野の小路」が収録されていました。ある少女小説作家の女性が仕事部屋から見える小路に姿をみせる男の子と女の子の成長と恋を見守る、じんわりいいお話。けれども「紫苑の園」はまだ入手可能のようですが、「香澄」は絶版状態で、私も最近漸く古書で入手したのです。
 トップ画像に使った小学館から出ている文庫版も、気が付いたら在庫薄の模様。。個人的には「香澄」でもって完結する作品なのでぜひ通して読んで欲しい作品。出版社さん、重版なんとかお願いします!
関連記事
スポンサーサイト

テーマ:ブックレビュー
ジャンル:本・雑誌

コメント

非公開コメント

08 | 2017/09 | 10
- - - - - 1 2
3 4 5 6 7 8 9
10 11 12 13 14 15 16
17 18 19 20 21 22 23
24 25 26 27 28 29 30
About me

夜長姫

Author:夜長姫
お立ち寄りいただきありがとうございます。
本や映画や音楽の感想を新旧問わずマイペースに書いています。
ジャンルは何でもござれですが、微妙な偏りがあるみたいでそれに流されがち。好みの合う方がいらっしゃれば大歓迎です。
本、というか文芸は物語のしっかりしたものよりは、迷宮に迷わせてくれるような作品が好み。映画は劇場鑑賞派です。
拍手、コメントなど頂ければとても嬉しいです。
※たいして頭の良くない人間が無い知恵絞って書いております。無断転用等はご容赦くださいね。

Category

CategoricTag

Comment

Recent entries

Search

Link

RSS

Archive

Mail Form

質問等ございましたらこちらからどうぞ

名前
メール
件名
本文

Counter

フリーエリア

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。