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西村賢太「苦役列車」

2011.02.07 22:42
苦役列車苦役列車
(2011/01/26)
西村 賢太

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 私小説を書き続けている作家・西村賢太の第144回芥川賞受賞作。
 日雇い労働でその日暮らしの生計を立てていた十代の日々を描いた表題作と、作家となった現在の日々を描いた「落ちぶれて袖に涙のふりかかる」を収録。
 ずしんと痛い「私小説」を、久々に読んだ気がします。
 本作はいわゆる私小説ですが、いい私小説というのは描く対象としての己自身を客観視する「距離」で決まるんじゃないかと思います。
 本作はその「距離」の取り方が絶妙かな、と。
 読み進めば読み進むほど、読者は主人公・貫多=著者のねじれまくった性格やぴがみっぽさ、無駄に高いプライドなど、おおよそどうしようもないマイナス面をこれでもかと見せつけられていきますが、そこにはユーモアさえ漂っている。だから重苦しい内容のはずなのに、読むのが辛いとは感じない。
 
 主人公の貫多は、父が性犯罪者として逮捕されたことで「マトモな」人生から弾かれた存在として、日雇い労働で生計を立てている。中卒であることにコンプレックスを抱き、けれどもやたらとプライドばかりが高い彼は人付き合いもせずに19歳にして「誠に愚昧な暮らしぶり」。
 ある日、アルバイトでやってきた同い年の専門学校生・日下部と知り合い、徐々に友達めいた関係になる。
 けれども所詮相手は普通に青春を謳歌している19歳。貫多の中で徐々にコンプレックスや妬みがかさを増して行く。この邂逅は結局引き攣った感情ばかりを後に残して終わり、変わることのない貫多の日々は続いていく。

  彼はそこから這い上がる努力などには無縁な、ただ自分の置かれた状況の悪さに全責任を押し付け、他人を妬んでばかりの人間なので、いろんな意味で融通のきく日雇い労働の生活にそれこそ骨の髄までどっぷり漬かっています。もっと建設的に生きればいいのに…とか思いつつ、この状況に置かれたら人間そんなものかもしれません。人生の早い段階で自分の預かり知らぬところで人生が狂ってしまえば、人間不信にもなろうし、投げやりにもなるだろう。
 こんな駄目駄目人間を、笑いながらああ駄目なやつだと言い捨てることは簡単なことかもしれない。けれども何故か上手く笑えないでいるのは、私の中にも貫多と同じもの、どうしようもないほど駄目な部分があることが分かっていて、笑おうとするとそこがきしきし痛むからだ。
 この痛みに無縁でいられるひとは、きっと幸せなんだと思います。

 「落ちぶれて袖に涙のふりかかる」では、その後作家となった現在の貫多の、ぎっくり腰で痛めた腰に悲鳴を上げながらどうしても欲しい文学賞が取れるかと悶々とする姿が、忘れられた文芸評論家・堀木克三のそれと重ねられつつ描かれています。それは呆れるほど19の頃と何ら変りない貫多なのですが、じわりと忍び寄る老いと孤独の影が、青春時代とは違うもの哀しさを漂わせているように思いました。
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夜長姫

Author:夜長姫
お立ち寄りいただきありがとうございます。
本や映画や音楽の感想を新旧問わずマイペースに書いています。
ジャンルは何でもござれですが、微妙な偏りがあるみたいでそれに流されがち。好みの合う方がいらっしゃれば大歓迎です。
本、というか文芸は物語のしっかりしたものよりは、迷宮に迷わせてくれるような作品が好み。映画は劇場鑑賞派です。
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※たいして頭の良くない人間が無い知恵絞って書いております。無断転用等はご容赦くださいね。

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