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レチフ「パリの夜」

2011.03.25 21:24
パリの夜―革命下の民衆 (岩波文庫)パリの夜―革命下の民衆 (岩波文庫)
(1988/04/18)
レチフ・ド・ラ・ブルトンヌ

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 フランス革命前夜のパリ、そして革命下のパリ。熱狂と恐怖が渦巻く18世紀末動乱期のパリを、レチフ(Retif de la Bretonne:1734~1806)は夜ごと徘徊にし、そこで目撃したものを「アラビアン・ナイト」を模すように虚実を入り混ぜながら描き出す。
 全訳でないのが惜し過ぎる、18世紀フランスの異色作。
 少し前に読んだ「もうすぐ絶滅するという紙の書物について」の中で、ウンベルト・エーコが本書に言及していて、曰く「レチフは嘘つきの達人(58頁)」と。
 夜のパリを「観察するふくろう」と自らを称するレチフが革命前後のパリを描いた内容なのだが、当時のルポともいえる真実の部分とレチフ自身の妄想(エーコが嘘と言っている部分ですね)が混在している、如何にもエーコの好みそうな奇妙なものだというので好奇心がそそられるまま期待して読んだんですが、残念なことにこれは抄訳版。訳されているのは全体の半分にも満たない上、ピックアップされている各章も丸ごと訳出するのではなく歯抜けのように削られている部分があり、それがどうやらレチフの妄想部分のようで、処刑場に出現する「触り屋」などエーコが例に挙げたエピソードは全く出てこなかった。そこを読みたかっただけにかなり肩透かしを喰らった気分。この本が、幾つもの書店を巡りながらも中々手に入らなかったことも原因かもしれない。
 タイトルや各章が第~夜となっているのが示しているとおり、アラビアン・ナイトを模したこの作品の面白さは、レチフの妄想、虚像の部分にこそあったのではないかと思うのですが。
 
 「パリの夜」は三部構成で、革命前夜の夜のパリを描いた第一部は全体の30分の1程の訳出。女装をした美少年や3ヶ月ごとに妻を交換しあう男たち、カフェで繰り返される議論や処刑の目撃譚など夜ごとパリで見た出来事をレチフが「気ふさぎ夫人」と呼ばれる公侯爵夫人(レチフの創作です)に語るという体裁。中にはレチフと犬猿の仲だったというマルキ・ド・サド(Marquis de Sade:1740~1814)について触れた辛辣な場面もあります。それらには何処か不穏な、退廃した空気が漂っており、そこにレチフが幻視した出来事がないまぜとなって摩訶不思議な印象。たぶん全体に渡ってこういう感じなんじゃないのかと思うんですが、続く第二部(約半分の訳出)・第三部(約5分の4)、フランス革命の真っ只中を描いている部分レチフの創りだした虚像は出てこず、ひたすら革命のルポが続く。
 そのルポ部分はレチフが実際に目撃したのか第三者から聞いた話を書いたのかはさておき、当時の、まさにフランス革命直下に書かれたものなだけに、後世に書かれたものとはまるで違う読み応えがあります。
 特に、王妃マリー・アントワネットの取り巻きのひとりだったランバル大公夫人虐殺のエピソードは悲惨の極み。ここまでやってしまった当時の民衆心理って何だったんだろう。
 そんな凶暴化していく民衆たちの姿を、レチフは嫌悪しそして恐れた。農民出身のレチフは、当時の強欲な特権階級を良くは思っておらず、革命そのものには賛成していた。けれどもそれは決して、暴徒と化す民衆たちの度の過ぎた暴力を肯定するものではなかった。
 
 本文に、こんな一文があります。
「今日のすべての文学者のなかで、おそらく私は民衆にまじって民衆を知るただ一人の人間だろう。わたしは民衆を描きたい。よき秩序の見張り役でありたいと思う。」(66頁)
 
 農民出身のレチフは民衆というものを確かに直に知っており、素朴で勤勉な農民や都市の労働者には好意を抱いていたのが分かる。けれどもそこから外れたならず者や下層民を評するのには容赦がない。革命下の血生臭い暴力沙汰は、彼の目には、必ずしもそうではないにもかかわらず、全てこれらどうしようもない下層民の仕業とうつり、その存在を憎み恐れていたことが有々と分かる。
 こうした民衆観は、当時の知識階級の人間なら珍しくもないだろう。ただ、彼は農民=労働者から作家という上層民に成り上がったという、当時はかなり特殊な立場の人だったので、ジレンマも多く抱えていたらしい。実直な者、下層の者をひっくるめた民衆を目にした時、彼の中にはアンビヴァレンツな感情が生じていたのではないだろうか。何となくこうした二面性が、「パリの夜」という虚像と実像の混じる一見矛盾を孕んだ作品を書かせたのかもしれない。
 ……と思うと、やっぱり妄想部分は削ったらまずいんじゃないのかな…。

 どうにも貧乏性の私は、翻訳ものの抄訳版はどうしても損をした気分になってしまう。ぜひぜひ、全訳で読める日が来ることを願います。
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ジャンルは何でもござれですが、微妙な偏りがあるみたいでそれに流されがち。好みの合う方がいらっしゃれば大歓迎です。
本、というか文芸は物語のしっかりしたものよりは、迷宮に迷わせてくれるような作品が好み。映画は劇場鑑賞派です。
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