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女哲学者テレーズ

2011.03.31 22:53

女哲学者テレーズ女哲学者テレーズ
(2010/12)
関谷 一彦

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 うら若き女性テレーズが語る、遍歴の中で目撃し、繰り広げられたスキャンダラスな出来事と哲学議論の数々。その果てに彼女が辿り着いたのは?
 18世紀半ば、革命前夜のフランスで地下出版され流行したリベルタン小説の代表作で、その過激な性描写も相まって当時ベストセラーとなった作品。
 未だに作者が誰なのか特定されていないという謎の作品でもある。

 初の完訳、そして訳者による詳細な解説付きで、18世紀リベルタン小説につてもしっかり理解出来る一冊、こんなのが出るなんて、もう、これは奇跡です(笑)。
 これまで抄訳版では何度か出ているが、完訳で登場したのはこれが初めて。永らく原典の入手が困難だったこともあり、それが翻訳作業に障っていたらしい。

 主人公テレーズがそれまでの奇妙な遍歴を愛人の伯爵に語る、という体裁で物語は進みます。 
 「われわれが実際に演じた場面の淫らさを何一つ漏らさない情景描写をあなたはお望みなのですか?」
 冒頭(11頁)テレーズはそう問いかけ、そして包み隠さず細部までそれまで彼女が見てきたもの経験してきたものを語るのです。実際にあった事件を元にした「ディラグ神父とエラディス嬢の物語」から「T神父とC夫人の物語」、「ボワ=ロリエ夫人の物語」と続きます。
 これはテレーズの遍歴の物語ですが、「性の遍歴」ではありません。彼女はスキャンダラスで異常な性愛の数々を目撃しますが、自身はマスタベーションで快楽を得ることに終始し、庇護者であり愛人である伯爵と結ばれるまで純血のままです(笑)。無知な少女が遍歴の中でやがて自らの哲学を持つ女性へと成長していく、大雑把に言えばそんな内容です。
 
 というわけで、あの毒舌家のサド(Marquis de Sade:1740~1814)ですら「ジュリエット物語」の中で絶賛しているこの作品は、本文は言うに及ばす所々に入っている当時の挿絵もしっかりそういう場面だらけの、一歩間違えればただのポルノ小説なので、そんなもの読めるか! という方はご遠慮ください。そして、外で読むのもおすすめできません(笑)。

 一応本作の名誉のためにも言っておきますと、リベルタン小説はポルノグラフィとは違うものです。 
 リベルタン小説というのは性を通じて教会批判や政治批判を行う非合法の小説の事で、確かに過激な性描写を含みますが「哲学」が入り組んできますので、性描写のみで構成されるポルノグラフィとは似て非なるもの、というわけです。
 今の多種多様なポルノグラフィの源流でもあるわけですが、性のみなならす支配者層にとっては思想的にも看過できない過激なもの、それが当時のリベルタン小説なのでしょう。

 作中の「ディラグ神父とエラディス嬢の物語」は、1731年のドール出身のジラール神父トゥーロンの告解者カディエールを惑わして強姦し挙句堕胎させたという、当時ヨーロッパ中で大スキャンダルとなった実際の事件をモデルにしており、「テレーズ」刊行時には既に17年経っていたとはえまだまだ関心を引いたと思われる。これからも見て取れるように、当時の腐敗しきった聖職者あるいは特権階級層を、性を通して皮肉り批判している。当時の民衆がこれを熱狂的に支持していたのは、支配者層を淫らな存在に落とすことで鬱屈を晴らしていたのでは、とも思う。
 そしてこうしたリベルタン小説が、やがて革命を引き起こすひとつの動力になっていただろうという訳者の見解は正しい。

 今も昔も性は最大のタブーとされている。それは、性が隠しておくべきものであるというのはもちろん、それが理性=秩序ある文明社会とは真逆の無秩序性や暴力性を孕んでいて、今ある社会の秩序をひっくり返しかねない危険があるからではないのか。
 為政者が時にこうしたものを規制したり弾圧したりするのは、無意識にであるにせよそのことに感づいているからではないだろうか。
 けれどもいくら抹消してみたところで、そもそも生殖に直結している性やそれに伴う快楽は肉を纏う人間からは決して切り離せないものである以上、ポルノ的なものは形を変えていくらでも現れるだろう。

 それにしても、18世紀を知れば知るほど、あとに続く19世紀が退屈に思えてしまう。
 こんなスキャンダラスなものが広く流通し、いかがわしさや有り得なさの半端じゃない人物がごろごろしている。それらは極彩色の狂乱時代を彩るとともに、なんともいえない不穏な空気をこの時代に漂わせている。1789年の革命で全てがひっくり返ってしまう、その直前の奇妙な熱狂の時代は、いくら調べても飽きることがないです。
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本や映画や音楽の感想を新旧問わずマイペースに書いています。
ジャンルは何でもござれですが、微妙な偏りがあるみたいでそれに流されがち。好みの合う方がいらっしゃれば大歓迎です。
本、というか文芸は物語のしっかりしたものよりは、迷宮に迷わせてくれるような作品が好み。映画は劇場鑑賞派です。
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