スポンサーサイト

--.--.-- --:--
上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

皆川博子「少女外道」

2011.04.01 23:36
少女外道少女外道
(2010/05)
皆川 博子

商品詳細を見る

 戦中戦後の少年少女の歪んだ想いや目覚め始めた性への関心など、そこから生じる思春期特有の残酷さが描かれた、まさに珠玉の、というべき短篇集。
 表題作「少女外道」の他、「巻鶴トサカの一周間」「隠り沼の」「有翼日輪」「標本箱」「アンティゴネ」「祝祭」の7編を収録。ああもう何だかタイトルを見ているだけで酩酊を覚えてしまいそう。というか、覚えました。
 色々惹かれる作品の多い作家さんなのに、実はこれが初読みだったりします。
 各作品の内容は、ざっくりと以下の通り。 

◇少女外道
 戦前から戦後をひとりで生きてきた画家の久緒。裕福な家で育った彼女は少女の頃、家に通っていた植木職人の息子・葉次が傷付き苦しむ姿に「決して他人に悟られてはならない感情(19頁)」を覚える。歪んだ感情を秘めたまま、やがて画家となった彼女は、ある時葉次と再会するが。

◇巻鶴トサカの一周間
 遠縁の老女の葬儀に出席した男は、そこで老女に勘当された娘と出会う。彼女は男が憧れていた画家・笹尾苓だった。葬儀の後、行動を共にしたふたりに不可思議な出来事が訪れ…。
 この作品だけ現代に生きる大人が描かれていますが、肉親の死を前に彼岸との境目ののぞくラストは見事。
 
◇隠り沼の
 生まれるときに双子の妹を失った乙矢。両親のもとでも、嫁いだ先でも孤独なままの彼女はやがて…。
 生と死の狭間で何処にも馴染めない主人公の孤独と、それを取り巻く大人たちの残酷さの対比、そしてそれを下から伺う少女・鳩子(におこ)の視線が秀逸。

◇有翼日輪
 大人しい優等生タイプの少年・圭雄(たまお)はガキ大将の同級生の兄で左官の義一に憧憬をこえた感情を抱く。それは叙々に圭雄を狂わせ、やがて悲劇を引き起こす。
 7編のなかで唯一少年を主人公にした、同性愛的空気の濃厚な異色作。

◇標本箱
 20年ぶりに帰った故郷は、倫(みち)にある鉱石の標本箱のことを思い出させる。それは、亡くなった彼女の叔母・千江の辿った哀しい運命が残したものだった。
 その土地に伝わる産土さまの風習が結びつけたある男女の哀しい物語。いちばん切なかったです。

◇アンティゴネ
 戦中の田舎町。梓の通う女学校に東京から疎開して来た江美子がやってくる。中々なじめいでいる彼女に、幼い頃東京にいた梓は懐かしさを覚えて徐々に打ち解け始めるが。
 時代に翻弄されながらも疎開先でそして戦後の東京で生きる少女の姿がいろんな意味で印象的。

◇祝祭
 かつて、大地主として栄えていた沙子の叔父の屋敷。大地主とその下働きの身分の差、人身売買、桜貝とともに鞠に封じられた身分違いの恋。早くに両親を亡くしそこで育った彼女は、今は霧散し見る影もないそこでの日々を思い起こす。
 これも切なかったです。

 どの作品も、理想化された少女(少年)時代とはちがう異端の物語であり、それぞれに美しい。そして、ノスタルジックなんだけでどもそれだけでは決して終わらない、ノスタルジーに紛れた残酷さの描き方が秀逸。

 特にお気に入りなのは「少女外道」「有翼日輪」「祝祭」。それぞれに過去と現在を行き来しながら、時と共に失われたものを描いている。特に前者の二作品は、歪んだ残酷さが頽廃的耽美に昇華されていて素晴らしい。

 1930(昭和5)年生まれの著者の手によって書かれたあの時代は、当時を知らない若手の作家の作品にはない空気が醸し出されている。
 戦前・戦中が舞台の作品がほとんどで、特に「少女外道」や「祝祭」などは、今ではちょっと想像もできない身分の差とか時代が抱える問題が物語に絡みながら展開していく。それが、この物語たちに退廃した美しさを与えている。おそらく現代が舞台だったなら、この閉ざされた息苦しさのない、もっとフラットなものになるんじゃないだろうか。
 「少女外道」の終盤に姿を見せる葉次の孫は、祖父の辿った苦労などまるで知らないように、ふつうの現代の少年である。今ではそれが当たり前なのだ。

 あと、登場人物の名前の付け方が独特ですよね。美しいというよりは不思議な響き。これだけで、皆川さんの世界が出来上がっていると思います。
 作品の持つ雰囲気、文体の美しさなど、今の今まで読んでなかったのが惜しいと思ってしまったくらい。他の作品も読んでみよう。
 それから本書はカバーや各作品の扉頁のねじり梅や椿のイラストが内容にぴったり合っていて、それがまたいい感じです。
関連記事
スポンサーサイト

テーマ:ブックレビュー
ジャンル:本・雑誌

コメント

非公開コメント

07 | 2017/08 | 09
- - 1 2 3 4 5
6 7 8 9 10 11 12
13 14 15 16 17 18 19
20 21 22 23 24 25 26
27 28 29 30 31 - -
About me

夜長姫

Author:夜長姫
お立ち寄りいただきありがとうございます。
本や映画や音楽の感想を新旧問わずマイペースに書いています。
ジャンルは何でもござれですが、微妙な偏りがあるみたいでそれに流されがち。好みの合う方がいらっしゃれば大歓迎です。
本、というか文芸は物語のしっかりしたものよりは、迷宮に迷わせてくれるような作品が好み。映画は劇場鑑賞派です。
拍手、コメントなど頂ければとても嬉しいです。
※たいして頭の良くない人間が無い知恵絞って書いております。無断転用等はご容赦くださいね。

Category

CategoricTag

Comment

Recent entries

Search

Link

RSS

Archive

Mail Form

質問等ございましたらこちらからどうぞ

名前
メール
件名
本文

Counter

フリーエリア

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。