スポンサーサイト

--.--.-- --:--
上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

リービ英雄「我的日本語」

2011.05.18 23:57
我的日本語 The World in Japanese (筑摩選書)我的日本語 The World in Japanese (筑摩選書)
(2010/10/15)
リービ 英雄

商品詳細を見る

 英語を母国語としながら日本語の小説を発表しているリービ英雄の自伝的日本語論。
 語学センスゼロのくせに、何故かこういう違う言語と言語の間の「ゆれ」みたいなものについて書かれたものが好きなんです。
 彼の自作を追うかたちで展開していくので、リービ英雄の小説の解説としても読むこともできます。
 アメリカ人でありながら、10代半ばで教科書に書かれたものではない生の日本語の魅力にとり憑かれた著者は、以来日本語の世界に入り込み、遂には日本語で書かれた小説を発表するに至る。
 面白いのは、若い頃に日本語に入り込んだためなのか、中心言語ともいうべき英語を母国語に持ちながら、日本語が周辺言語であるという認識がなかった、ということ。
 つまり彼は、西洋人の視点で日本語を見ているわけではない。だから、日本文学の翻訳ではなく自ら日本語で書きたい、と思うようになるのだ。けれどもその道のりは長く、日本語で書こうと思い至ってから20年かかって漸く一作目の「星条旗の聞こえない部屋」を発表している。

 彼の日本語への眼差しは、日本で生まれ育ち当たり前のように日本語を使って生活している私たちのそれとは違い、そのために普段意識もしないこの言語の不思議な点に気付かせてくれる。
 例えば、ひらがなにカタカナ、更には漢字の「混ぜ言葉」は、他の言語文化圏の人からは奇妙に見えるんじゃないだろうか。
 その他和歌に出てくる枕詞などが、他の言語に置き換えるとき、ほぼ翻訳不可能な、日本語独特のものであることにも今更気が付く。
 和歌といえば、リービ英雄は万葉集の英訳もしているのだが、万葉歌人たちの捉え方が面白い。
 皇族礼賛の長歌や挽歌など「公」を多く詠んだ柿本人磨呂の歌には、けれども極めてプライベートな抒情性に溢れており、ここに日本文学の誕生を見出す。また、渡来人であると言われている山上憶良の歌には、大陸の感性があるという。この憶良の考察は、母国語以外の言葉で文学を書いている人ならではのものじゃないだろうか。フツーに日本語を使っている私などには、絶対解らない感覚だと思う。

 その憶良の行為を復元するように、彼は大陸―中国―の発想を、島国の言葉で書いてもいる。
 リービ英雄は、幼少のある時期を台湾で過ごしている。その時の「言葉」の記憶が、初めて訪れた北京の地で一気によみがえったという。以来日本と中国を往来して、「天安門 」「我的中国」を発表している。
 ところで簡体字になる前の中国、そして簡略化される前の日本の漢字が、1500年間文字として同じものだったというのは衝撃。「現代化」の波が、漢字文化を決定的に変えてしまった。
 
 言葉の変容を追うことは、それを使う集団の文化や歴史を辿ることでもある。
 少し前に、グローバリズムの嵐が吹き荒れる中にあって、マイナー言語の日本語は中心言語というべき英語の前にやがて滅びるという説が流行っていたけれど、日本語が「なくなる」ということとは、それが背負っている歴史や文化もなくなるということに等しい。
 けれどもこれを読んでいると、あんがい日本語の未来は明るいのでは、と思えてくる。リービ英雄のみならず、最近は日本語を母国語としない海外出身の作家が、日本語で書いたものを発表することが増えた。そこには周辺言語だからこそ持つ独自性や強みが、上手く働いているのかもしれない。
 日本語で語られるアメリカ。日本語で書かれた中国。日本語でしか表せないもの。
 「世界にアイロンをかけたような国際化(120頁、多和田葉子の言葉)」をしていくのではなく、その言語固有の不揃いな、ざらざらした手触りをあえて抱きしめる。そうすることで、日本語の可能性は限りなく広がる気がする。
 …ということを、気付かせてくれた一冊でした。
関連記事
スポンサーサイト

テーマ:ブックレビュー
ジャンル:本・雑誌

コメント

非公開コメント

04 | 2017/05 | 06
- 1 2 3 4 5 6
7 8 9 10 11 12 13
14 15 16 17 18 19 20
21 22 23 24 25 26 27
28 29 30 31 - - -
About me

夜長姫

Author:夜長姫
お立ち寄りいただきありがとうございます。
本や映画や音楽の感想を新旧問わずマイペースに書いています。
ジャンルは何でもござれですが、微妙な偏りがあるみたいでそれに流されがち。好みの合う方がいらっしゃれば大歓迎です。
本、というか文芸は物語のしっかりしたものよりは、迷宮に迷わせてくれるような作品が好み。映画は劇場鑑賞派です。
拍手、コメントなど頂ければとても嬉しいです。
※たいして頭の良くない人間が無い知恵絞って書いております。無断転用等はご容赦くださいね。

Category

CategoricTag

Comment

Recent entries

Search

Link

RSS

Archive

Mail Form

質問等ございましたらこちらからどうぞ

名前
メール
件名
本文

Counter

フリーエリア

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。