

2008年に亡くなった世界的なデザイナー、イヴ・サン=ローランのドキュメンタリー映画
「イヴ・サンローラン」観てきました。
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Story> 世界的な一流デザイナー、イヴ・サン=ローランの輝かしい実績の裏に隠された繊細な素顔を、貴重な映像や各関係者、そして公私にわたるパートナーだったピエール・ベルジェのインタビューによって明かす、世界的高級ブランド「イヴ・サンローラン」ではなくデザイナー、イヴ・サン=ローランその人を追ったドキュメンタリー。
ドキュメンタリーなのでドラマ性はないですが、貴重な映像も多くファッションやモードに関心のある方は必見の一本です。
イヴ・サン=ローラン(Yves Saint-Laurent:1936~2008)はアルジェリア(1962年までフランス領だった)のオラン出身。
のちにパリに移住しファッションデザインの道へ進み、クリスチャン・ディオールのアシスタントとなる。そしてディオールの死(1958年)により、21才という若さでディオールの主任デザイナーに抜擢されて世界を騒がせた。
その後、1961年にピエール・ベルジェと共にメゾン「イヴ・サンローラン」を創立。「モンドリアン・ドレス(1966年)」や「サファリ・ルック(1968年)」など、彼独自の独創的でエレガントな、今や伝説的なスタイルを発表した。
2002年に引退を表明。そして2008年、72才で逝去した。
映画はそんなサン=ローランの引退会見の映像から始まる。そこで「人生でもっとも大切なことは自分自身と出会うこと」と語った彼の人生とは、いったいどんなものだったのだろう。
コレクションのアーカイブや生前のサン=ローランを映した映像が「表」なら、友人や関係者たちの証言やインタビューは「裏」だ。
ファッション業界という、華やかで美しいが同じくらい厳しい世界のトップに君臨し続け、賞賛と羨望を得て、ベタな言い方をするなら大成功を収めた彼だが、実はとても繊細な神経の持ち主で、常に孤独を感じていたらしい。それは、生前の彼のインタビュー映像などを見ていても分かる。世間の批評に常に神経を尖らせ、プレッシャーにたえられない時はアルコールやドラックにまで手を出していたという。
そんな繊細なデザイナーの姿をいちばんよく教えてくれるのは、50年という長きにわたりサン=ローランの公私のパートナーだったピエール・ベルジェ。
ディオールの主任デザイナーを退いたのは当時のディオールのトップがサン=ローランをよく思ってなかったためだとか、サン=ローランが心からの笑顔を見せるのは一年に二度、コレクションが無事に終わったあとだったとか、孤独な天才の姿が見えるようで切ないですね。
ピエール・ベルジェはそんな彼を長い間支え続け、見守っていたのかと思うと、もしかしたら、この人がいなければイブ・サンローランというメゾンは誕生しなかったのでは、と思えてきました。彼はサン=ローランとは逆の、経済界や政界にも顔の利くような実世界でしっかり生きていけるタイプの人物。彼の支えは、メゾンにとってもかなり大きかったはずだ。
映画は、サン=ローランとピエール・ベルジェが所有していた美術品のオークションを見届けるところで終わります。大切な人とのコレクションをオークションにかけることについて、ピエール・ベルジェはこう語る。
「もし、彼よりも先に私が死んでいたら、彼は美術品を手放すことはしなかったでしょう。彼にとって美術品はなくてはならないものですから。そして彼の死後、これらは散逸したでしょう。私はそうならないために、これらをオークションにかけるのです」
なるほどね、と思うと同時に、ああ、やっぱり彼はサン=ローランとは違うんだな、と思いました。
1998年のサッカー・ワールドカップ・フランス大会のセレモニーで、300人のモデルがイブ・サンローランの作品を纏って会場を闊歩する映像が圧巻。メゾン・イブ・サンローランの歴史と、女性を、ファッションによって美しくそして自信あふれる存在にしたい、というサン=ローランの理念がしっかりと感じられて、涙が出てきました。彼が苦悩と孤独の末に生み出したもの、その素晴らしさにひたすら感謝です。
余談。
サン=ローラン急死のニュースもショックだったけれども、アレキサンダー・マックイーンの急死(自殺という説もある)やジョン・ガリアーノの人種差別発言とそれによるディオール主任デザイナー解雇など、最近のモード業界は揺れている印象がある。
リーマンショックの大打撃の中で行われた2008年のコレクションで、ジョン・ガリアーノが「イマジネーションに危機はない」と言い放って、不況知らずのハイ・ファッション業界さえも飲み込んだ未曾有の危機を乗り切ろうとしていたことを、ふと思い出す(言った本人は別の危機を招いてあんなことになりましたけどね)。
そうでなくてもファストファッションに押されがちなハイ・ファッション業界、この先も、ハイ・ファッションだからこその魅力を紡いでいってほしいなぁと思いました。
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